9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
   ※

エロイーズ妃の死後、彼女の病の原因が実は繰り返しの暗黒魔法によるものとわかったとき、ベンジャミンは不吉な予感に襲われた。

暗黒魔法をかけた者の正体が、からきし分からなかったからだ。

九歳だった当時の彼は、これほど不気味な魔法をまだ見たことがなかった。

とはいえ、すでに自分が聖人であることを自覚している身。

普段は能天気で無知な子供を装い、必死に隠している有り余る魔力で、どうにか犯人を突き止めようと心に誓った。

だが、すでに遅かったのだ。

エロイーズ妃を追いかけるようにして、当時六歳だったデズモンドが、王城敷地にある庭園の大池で溺死したのだ。

正妃であるアマンダ妃とふたりで散歩していた折だった。

デズモンドの遺体を目の当たりにして、ベンジャミンは放心していた。

聖人にとって、主の死は、己の千倍の死も同然。

全身を引き裂かれたかのような激しい胸の痛みに翻弄され、立っているのもやっとだった。

そこで、思いがけないことが起こる。

なぜかベンジャミンが捕らえられ、事故の責任を負うことになったのだ。

『ベンジャミンとデズモンドが散歩中に起こった事故だ』とアマンダ妃が証言したためだった。

(嘘だ。アマンダ妃はデズモンド様とふたりで話がしたいからと、僕を追いやったじゃないか)

だが無知で無能な(フリをしている)ベンジャミンの証言など、誰も聞き入れようとはしなかった。

皆はアマンダ妃を信じ込み、父の大魔導士エンリケですら、ベンジャミンの過失だと責め立てた。

大人たちに取り囲まれ、責められているベンジャミンを、遠目から見下すように見ているアマンダ妃。

その瞬間、ベンジャミンは気づいたのだ。

事故なんかではない――デズモンドは、アマンダ妃に殺されたのだ。

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