9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
あの長期風邪が死を招く疫病に変化するとは、まだ誰も知らない段階だった。

だからセシリアが恐怖の疫病から国を救ったことを知る者は、ひとりもいない。

その後は城の地下聖堂で、祈りを捧げることに日々没頭した。

どうかエヴァン様が早死にしませんようにと、あらん限りの願いを込めて。

その甲斐あってか、エヴァンは、これまでの人生で一度も到達できなかった二十九歳の誕生日を迎える。

それなのに、直後にバルコニーから転落して事故死してしまうなんて……。


(九回目の最後の人生、どうやって生きたら、この方を救えるのかしら)

真昼の渡り廊下で、セシリアは、目の前にいる二十二歳のエヴァンを見つめながら深刻な顔をする。

話しかけているにも関わらず、先ほどから押し黙っているセシリアに対し、エヴァンが苛立った声を上げた。

「おい、その無礼な態度はなんだ。聖女だからといって許されることではないぞ」
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