9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
困惑したように、彼が一歩退く。

(そういえば、エヴァン様に触れたのはこれが初めてだわ)

八度も人生を共に過ごし、五度は結婚までしたのに、手にすら触れられたことがなかったなど、今さらながら呆れる。

ショックを通り越して、思わず自嘲的な笑みがこぼれそうになった。

(私って、相当嫌われているのね。ほんの少し触れた今ですら、表情を険しくされているもの。だけど、これほど嫌われているのなら、婚約破棄の話も持ち掛けやすいわ)

「エヴァン殿下。お願いがあります」

「珍しいな、君が物を欲しがるなど」

「物が欲しいのではございません。無礼を承知で申し上げます。どうか、なるべく早くに私と婚約を解消してくださいませ」

エヴァンの表情が、石のように凍りついた。

顔色が、みるみる白くなっていく。

時が止まったかのような長い間のあとで、エヴァンが唸るような声で言った。

「――――ふざけているのか?」

「ふざけてなどいません、本気でございます。聖女といえども役立たずの私は、王妃にはふさわしくありません。殿下もそれは重々承知していらっしゃることと思われます。どうか陛下と掛け合って、婚約を破棄してはいただけないでしょうか?」

すると。

――バシッ!

自分の手を握っていたセシリアの手を、エヴァンが乱暴に振り払った。

「俺と君の婚約は、神聖なる儀式で誓ったことだ。それを破棄など、神への冒涜に値する。それでも覆すというなら、不敬罪で君を投獄するぞ」

なまじりを釣り上げたエヴァンは、あからさまに怒っていた。

ふたつ返事で婚約解消を承諾してくれるとばかり思っていたセシリアは、狐につままれたような心地になる。
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