9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
セシリアが、王都に来るのは久しぶりだ。

たしか今回の人生でも、十歳で城に召し上げられてから十八歳の今に至るまで、一度も来たことがないように思う。

帽子屋に写真屋に菓子屋にレストラン。

様々な店が軒を連ねる商業区には、レモネードや焼きトウモロコシなどの露店も出ていた。

広場ではアコーディオンの演奏に合わせ、人々が楽しそうにダンスを踊っている。

「今夜はお祭りなのですか?」

セシリアは、噴水脇でパイプの煙をくゆらせている老人にそれとなく聞いてみた。

「ああ。月に一度の、豊作を願ってダリス神を称える祭りさ」

すると、近くでアコーディオンの音色に合わせて手拍子をたたいていた中年女性も、話に加わってくる。

「あんた、見かけない娘だね。どこから来たんだい?」

「ええと、外国から引っ越して来たばかりなんです」

答えを用意していなかったセシリアは、とっさに嘘八百を並べた。

すると中年女性が、意外にも納得するように大きく頷く。

「なるほど。似たような話をこの間も耳にしたけど、本当だったんだねぇ。なんでも、今の王太子様の婚約者は聖女様だろ? 結婚なさるまであと二年だ。我がエンヤード王国は、聖女が王妃の御代は国が栄えるって噂なものだから、オルバンス帝国を恐れている国からの移住者が絶えないらしいよ。オルバンス帝国が攻めてきたら、力のない国はあっという間に吸収されちまうからね」

パイプを咥えている老人が、中年女性の言葉にしかめ面をした。

「オルバンス帝国はたしかに強大だが、友好国を作ろうとしない厄介な国さ。そのうえ皇太子のデズモンドは、今の皇帝よりもさらに凶暴らしい。だから今のうちに、あの国の脅威に怯えないでいられる住処を、誰もが求めているんだろう。あんたもその類だろ?」

セシリアは複雑な想いを抱きながら、こくこくと頷いた。
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