9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「おいおい、お嬢ちゃん、大丈夫かい? 言っていることが滅茶苦茶じゃないか。それにしても、たった一杯でそんなに酔えるやつも珍しいな」

「そうなんれすかー? ふふ、それにしてもお酒がこんなにいいものだとは思いませんでしたよ。もっと早くに飲めばよかった~」

セシリアがこうしてラム酒一杯でべろんべろんに酔ってしまったのにはワケがある。 

広場で老人に宿屋街を訪ね、行ってはみたものの、何も行動できなかったのだ。

旅人と思しき男は、老いも若きもたくさんいた。

だがそもそも、セシリアは無駄に人生経験があるにも関わらず、男を誘う手管というものを心得ていない。

学問、武術、魔法、薬学――エヴァンを救うためにありとあらゆる知識は身につけたが、そっち方面に関してはからきし駄目だった。

魅力的な女性になってエヴァンをなびこうとした七回目の人生で娼婦にノウハウを聞きはしたが、知識を得ただけであって行動には移せず終わった。

つまり、見ず知らずの男に声をかけて閨事を持ちかけるなど、処女で奥手のセシリアには、ハードルが高すぎたのである。

しかも、エヴァンを救うための最終手段だとしても、セシリアが今からしようとしていることは神を裏切る重罪。怖気づかないわけがない。

困り果てたセシリアは、何度目かの人生で、誰だったか、『酒を飲むと頭がぽうっとして、怖いものがなくなる』と言っていたのを思い出す。

そうだ、お酒の力を借りよう――そう思い立って酒場に入り、今に至った。

自分がめっぽう酒に弱いのは誤算だった。

だが聖女として繰り返した人生、セシリアは酒など一滴も飲んだことがなかったから、知る由もなかったのである。
< 56 / 348 >

この作品をシェア

pagetop