9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「世の中にはこ~んなにも楽しいことがあるのに、わたしはいったい何をしていたのでしょう? 努力したことは、全部無駄になっちゃったし……」

上機嫌になったあとは、グスッと洟をすすりあげて泣き出す始末。

もはや、お酒に支配されて、ワンナイトの相手を探す本来の目的などすっかり忘れていた。

「今度は泣き上戸かい? こいつは困ったな」

店主が眉尻を下げ、困り果てたように頭の後ろを掻く。

「おおっ! これが、名剣と名高い魔法剣ルキウス!」

すると、セシリアの真後ろのテーブル席から、男の声が耳に飛び込んできた。

「そうさ。とある高位貴族の宝物庫から発掘した代物だ。生きている間にお目にかかれただけで、奇跡と言ってもいい一級品だぜ」

別の男の声が、それに答えている。

「なんと、まさか本物を見る日が来るとは。噂通りダリア石がふんだんに装飾されていて美しい。惚れ惚れするよ」

酔っ払って泣いている最中ではあるが、セシリアはその会話の違和感にすぐに気づき、後ろを振り返る。

そこには、二十代半ばくらいの派手な身なりの男と、妖しい雰囲気のフードマントの男がいた。

どうやら、古物商と客が商談をしているようだ。

魔法剣ルキウスは、古代より伝わる伝説の剣である。

魔法を宿した道具である“魔道具”の中でも、最高峰の代物だ。

火魔法、水魔法、風魔法、土魔法、治癒魔法、暗黒魔法。

すべての魔力を格段に上昇させる、この世にふたつとない剣だった。

紫色に輝くダリア石という魔石が、柄の部分にびっしりとはめ込まれているのが特徴だ。

古の頃は賢者に愛用され、国の発展に一役買ったと聞くが、悪人に悪用された事件を機に、今はエンヤード王国にある魔法城の奥深くに厳重に保管されている。

だが巷では行方知れずという話になっていて、正確な行方は一部の魔導士しか知らない。
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