9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
酔っているせいか視界が定まらず、セシリアは、男の鋭い視線に気づかない。

男たちの顔がぼやけてよく分からない程度には泥酔しているが、詐欺を暴かねばという正義感だけははっきりしていた。

テーブルの上にあったゴブレットの中の酒に、軽く指先を浸す。

その指で鑑定書の承認印に触れると、臙脂色のインクが瞬く間に滲んだ。

それを見て、古物商らしき男が怒声を上げる。

「おい、どうしてくれるんだ! 鑑定書が台無しになったじゃねえか!」

「魔道具の鑑定書の承認印には、魔力が込められています。水分で滲むことはあり得ないし、鑑定書が引きちぎられても、承認印だけが剥離して残るよう魔法がかけられています。これは偽物ですね~」

「なっ……!」

六度目の人生で得た知識を口にすると、フードマントの男が狼狽した。

「それに――」

セシリアは今度は、ルキウスと謳っている剣の柄に、フーッと息を吹きかける。

「ほら、曇ったでしょう? 魔石は魔力以外の刺激には決して反応しません。これはダリア石どころか、魔石ですらありません~」

この知識に関しては、六度目ではなく、七度目の人生で学んだ。

見栄えをよくしてエヴァンを振り向かせるために、自分に似合う宝石を必死に探した経験からだった。

結果エヴァンにはますます嫌悪されたが、美容ならびに宝石を含めた装飾品の知識だけが深まったのは皮肉な話である。

古物商の男が押し黙る。

うら若い娘の蘊蓄話に皆が聞き耳を立てているのか、店内は水を打ったように静まり返っていた。 

そこで、予想外の事態が起こる。

――ガタッ!

古物商らしきフードマントの男ではなく、詐欺話をふっかけられた派手な身なりの客の方が立ち上がり、セシリアの胸倉をつかみ上げたのである。

「――きゃっ!」

突然のことにセシリアは驚いたものの、酔いが醒める気配はない。
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