9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
むしろ頭をグラグラ揺さぶられて、より酩酊していった。

「このボクが本物と認めたんだ! 小娘の分際でナマイキだぞ!」

(ええっ? どうして助けようとしたこの人に怒られてるの?)

どうやら、小娘ごときに自分の発言を覆されるのが許せない、裁量の狭い男だったらしい。

そもそもそのセンスのない身なりからして、小物だと早めに気づけばよかった。

だが、すでにもうあとの祭り。

「フンッ!」

――ドンッ!

大柄なその男に、セシリアはいとも容易く投げ飛ばされる。

背後にあった椅子やテーブルもろとも、豪快な音を立てて床に倒れ込んだ。

「うわぁぁっ!」

客たちが悲鳴を上げ、店の外に逃げていく。

背中に痛みを覚えつつも、セシリアがどうにか身体を起こそうとしたとき、先ほどの客が、セシリアめがけて真っ向から突進している姿が目に入った。

センスがない小物のうえに、キレやすい性格らしい。

(本当に、最悪。余計なことをしなければよかった……)

よかれと思ってやったことが裏目に出た経験は、繰り返し人生の中でも何度もある。

自分の不甲斐なさにうんざりしつつ千鳥足で立ち上がると、セシリアは無意識のうちに構えの姿勢をとっていた。

そして、猪のごとく迫ってきた男の肩をつかみ、腹の下を蹴り上げて、くるりと後方に投げ飛ばす。

武術を学んだのは、何度目の人生だったか。

酩酊した頭では、そんなこともはっきり思い出せない。

努力を積み重ね、無駄に知識や力をつけはしたが、エヴァンは絶対にセシリアを愛してくれなかった。

男を投げ飛ばしたあと、なぜか感傷的な気持ちになり、目から涙がほろりとこぼれ落ちた。

同時に、投げ飛ばした男が壁にぶつかる音がドンガラガッシャン響き渡る。

「こんのぉ~! ボクを誰だと思ってる~っ! アルギルド商会の次期後継者、目利きのチャド様だぞ~!」
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