9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
火山が噴火するがごとく、怒りを爆発させる男。

だが動き回ったせいで完全に酔いの回ったセシリアは、ポワンとして、もはや目も開けていられない状況だった。

急速に眠気が襲ってきて、膝から崩れ落ちたとき、ふいに視界が陰る。

それから、ふわっと身体全体が温もりに包まれた。

「そこまでにしろ」

直後に耳朶を打った、初めて聞く男の声。

「無抵抗の者に暴力を振るうなど、恥を知れ」

殺伐とした口調ながらも、低くて耳心地のよいその声に、こんな状況だというのに聞き惚れてしまう。

それに――。

(あったかい)

仔猫が親猫の体温を求めるように、セシリアは無自覚のまま、その温もりに身を委ねていた。

広くて、硬くて、ホッと胸が安らぐ。

(誰かが守ってくださったのね。他人に守られるなんて、いつぶりかしら――)

おそらく、幼い頃にティーパーティーでエヴァンに声をかけられて以来だ。
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