9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
瞼を上げると、見知らぬ木目の天井が目に飛び込んできた。

いつの間にか、ベッドに横になっている。

(ここはどこ……?)

たしか宿屋街の酒場で酔い潰れ、ひと悶着を起こしたはず。記憶が飛んでいるということは、そのあと意識を手放したのだろう。

身体を起こしたものの、グワングワンと視界が回って定まらない。

どうやら、まだ身体に酒が残っているらしい。

「目が覚めたか」

すると、真横から男の声がした。

部屋の隅にある椅子に腰かけ、腕を組みながら、じっとこちらを見ているようだ。

(すごく素敵な声)

エヴァンも美声だが、より深みのある、男らしい声だ。

(この方は、たぶん私を助けてくださった人ね)

「……あなたが私をここに運んでくださったのですか?」

「ああ。倒れた人間を放っておくわけにもいかないからな」

いまだ酩酊している状態では、彼の顔がよく分からない。

それでもその話し方や落ち着いた雰囲気から、彼が良識のある人間だということを、セシリアはなんとなく感じ取った。

「ご迷惑をおかけして、申し訳ございません……」

「気にするな。大したことではない」

 男はセシリアの心を落ち着かせる、おおらかなものの言い方をする。

(こんな男の人も、世の中にはいたのね)

セシリアの周りにいたのは、実父やエヴァンをはじめ、セシリアを冷遇する男ばかりだった。
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