9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
もしくは先ほど酒場で会った、自分の利益しか考えていない男や、気位だけはやたらと高い男か。

図書館長や魔法修行の際に世話になった魔導士など、時には親切な者もいたが、男の醸し出す雰囲気はそれとはまた違った。

そこにいるだけでこの身を包まれているような、底知れない懐の深さを感じる。

九度も人生を繰り返しているセシリアでも、まだ会ったことのないタイプの人間がいたようだ。

「ところで、ここはどこですか?」

「俺の今夜の宿だ。先ほどの酒場の二階にある」

「……ということは、あなたは旅の御方?」

「ああ、国境を超えてきた。旅をするならこの国がいいと知人に言われてな」

(旅の方……)

何かが胸に引っかかったが、酔っ払った頭では、それが何かを思い出せない。

「それにしても」
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