9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
倒れかけたセシリアの身体を、腕を伸ばした男が受け止める。

「大丈夫か?」

がっちりとした腕に包まれていると、また不思議な安心感に包まれた。

会ったばかりの人にこんなにも親近感を抱くなど、自分はどうかしてしまったのだろうか?

「よかったら家まで送ろう。この国の地理は詳しくないが、案内してくれたらどうにかなるだろう」

すぐ耳元で男らしい声がして、セシリアはピクッと肩を揺らした。

今目の前に、男という生き物がいることを思い出したのだ。

それも、後腐れのない、外国からの旅行者。

聖女の証を消してくれる、理想の男――。

「あの……」

男の腕の中で、セシリアは声を振り絞った。

「あなたにお願いがございます」

「どうした?」

「私を、抱いてくれないでしょうか?」

男の身体が硬直した。

彼を取り巻く空気も、一瞬静止したように思う。

しばしの沈黙の後、男が困惑気味に言う。
< 66 / 348 >

この作品をシェア

pagetop