9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「――すまない。よく聞こえなかったのだが……」

「私を抱いてくださいと言ったのです」

「…………」

今度は、より長尺の沈黙が訪れる。

「……どういう意味で言っている?」

「身体の関係を持ちたいという意味で言っています」

酔いの勢いに任せてはっきり言い切ると、男が呆気にとられたようにセシリアを見つめた。

「この国の女は、行動力まであるのか? まあ、我が国にもそういう女はいるが……。君は、俺の素性を知っているのか?」

「いいえ、存じ上げません」

だがそこで、セシリアは思い直す。

仮にも会った当日に一線を超えようとしているのだ。

素性も知らないなど、誰でもいいかのようで、失礼ではないだろうか?

「その、ええと……」

セシリアは、ぼんやりと視線を上げた。

男の素性を予想するために、顔を見定めようとしたが、酩酊した頭では、やはり視線が定まらない。
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