9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
ぼんやりとした顔の輪郭や、黒髪であることだけが、かろうじて認識できただけだった。

はっきりと見えたのは、上着のボタンのひとつに彫り込まれた斧の模様だけである。

セシリアは、瞳をわずかに輝かせた。

「あなたは、木こりですね?」

斧といえば、木こりである。

なんだかものすごく見覚えのある絵柄のような気もするが、酩酊した頭では思い出せるはずもなかった。

すると男が、片手で口元をおさえる。

どうやら笑っているようだ。

「? 何がおかしいのですか?」

「いいや。新鮮で面白かっただけだ。いいな、木こりか。彼らのおかげで家があり、町がある。俺は常日頃から彼らに感謝してるし、尊敬もしている」

(どうやら当たったようね)

セシリアがホッと胸を撫で下ろしていると、男がより顔を近づける気配がした。

「君はなぜ木こりに抱かれたい? 察するに、娼婦というわけでもないだろう?」

「それは――」
< 68 / 348 >

この作品をシェア

pagetop