9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
デズモンドはベッドから起き上がり、衣服を身につけると、懐から漆黒の魔石を取り出した。

彼の掌よりもやや小ぶりのその丸い魔石は、周囲をぐるりと金属で取り囲むように加工されている。

もとはひと回り大きな石だったが、二分割し、もう片方は彼の側近がペンダントにして肌身離さず持っていた。

魔力によって、たとえ遠方にいようと、側近とやりとりができるよう改造されている。

デズモンドはその魔石を強く握り締めた。

次第に魔石に熱がこもり、掌ごと金色の光に包まれる。

「ベンジャミン、聞こえるか?」

魔石に向かって声をかけても、返事はない。

「急を要することだ、聞こえたなら返事をしろ」

声を張ると、魔石を包む光がより強まった。

《ふわわ~、何ですか? 気持ちよく寝てたのに》

ようやくのことで、デズモンドの最も近しい友人であり側近でもあるベンジャミン・サイクフリートの声がする。

遠くにいても、乱れた銀髪の、寝ぼけ眼の顔が目に浮かぶようだ。

《久々に魔石を使われたかと思えば、こんな早朝からやめてくださいよ。昨日は夜遅くまで、父上に無理やり任された書類を片付けていたんですから。書類仕事ってほんとキライなんです》

これでデズモンドよりも年上なのだから、にわかには信じがたい。
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