9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
魔石の向こうで、ベンジャミンは絶句しているようだ。

《まさか、女性嫌いのデズモンド様からそんな爆弾発言が聞ける日が来るとは……っ! 女性の気配がなさ過ぎて、秘密の恋人の噂まで立てられた身としては、感動で泣きそうです……っ! ていうか手を出すの早すぎません!? 猪突猛進タイプなのは重々承知してますけど、あまりにも急ですよ!》

「詳しい経緯についてはまた話す。今は彼女を探すのが先決だ。手首にあった特徴的な痣の情報を探ってくれ。行方を知る手掛かりになるかもしれない」

《痣ですか? 形とか大きさとか、くわしく教えてくれますか?》

「盃のような、奇妙な形をしていた。大きさは、金貨とさほど変わらない。まるで入れ墨のような細かな紋様で、色を流し込んだかのように青かった」

昨夜暗がりで見たその痣は、冴え冴えとした青色をしていて、彼女の白い肌によく映えていた。

細く華奢な手首とは対極的に、奇妙な存在感があり、気にならずにはいられなかったのだ。

魔石の向こうで、ベンジャミンが押し黙る。

「どうした? 聞いているのか?」

《……もちろん、聞いていますよ。これはまたやっかいな女性に手をお出しになられましたね。さすがとしか言いようがございません》

「どういう意味だ?」

《あなたの運の強さに呆れていたところです。幸運か悪運かは測りかねますが》

「もったいぶらないで、彼女の行方について何か知っているなら早く教えろ」

ベンジャミンの含んだような物言いに、苛立ちが募る。

《遠巻きにあなたを見守っている騎士たちを引き連れて、即刻エンヤード城に向かわれてください。彼女の行方について分かるはずです。彼女の正体はおそらく――――》
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