9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
(セシリアが死んだ? そんな――)

背中まで伸びた波打つ胡桃色の髪に、白い肌、華奢な身体。

エヴァンの機嫌をうかがうように、上目遣いでこちらを見上げるエメラルドグリーンの瞳。

哀れになるほど存在感の薄い彼女の姿が脳裏に浮かぶ。

首を絞められるような感覚がした。

「……セシリアの様子は、見に行ったのか?」

急病など、夜中に異変があれば、侍女がすぐに知らせるはずだ。

(ああ、だがセシリアの侍女は、ろくに彼女の世話をしていなかったから……)

婚約破棄を口にされたとき以上の衝撃に襲われ、エヴァンは息をするのもやっとだった。

すると侍従長が、思いもしなかったことを口にする。

「セシリア様は、生きていらっしゃいます。先ほど城にお戻りになられました」

「……は? なぜだ? どうなっている? 城に戻ったとは、今朝まで出かけていたということか?」

すると、扉の向こうがまた騒がしくなった。
< 84 / 348 >

この作品をシェア

pagetop