9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
「神の御前で殿下との婚約を誓ったにも関わらず、不貞を働いたのです。聖女の証の消えた手首を私に見せて、自らそう告白しました」

エヴァンは、大きく息を呑んだ。

目の前が真っ白になり、何も考えられなくなる。

ある意味、セシリアが死んだと思い込んだときよりも衝撃だったかもしれない。

衝撃を通り越し、頭の中が混乱して、笑いが込み上げる。

「ははっ、そんなわけがないだろう? セシリアが不貞など、できるわけがない。彼女は聖女として役立たずで、俺の婚約者であること以外誇りを持てないようなみじめな女だ。それがまさか……」

そう思う一方で、昨日婚約破棄を望んだセシリアの様子を思い出して、焦燥に駆られた。

無言でじっとエヴァンを見据える最高司祭を目にしたとたん、今さらながら、それは確信に変わった。

「………本当なのか?」

少年のような、か細い声が出る。
< 87 / 348 >

この作品をシェア

pagetop