9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
すると司祭は大きく頷き、顔にセシリアに対する嫌悪感を露にした。
「はい。ですが、基礎的な魔法も使えず、大した身分の家柄でもないあのような者は、そもそも聖女にはふさわしくなかったのです。ダリス神も、あんな者に聖女の証を与えたなど、何を血迷われたか。エンヤード王国の神聖なる聖女の歴史に泥を塗ったのは、許しがたい罪です」
それから再び、エヴァンに笑みを向ける。
「教会も総出で、新聖女の誕生を祝っております。今頃報告がいっていると思われますが、陛下もきっと祝福されるでしょう。国民も大騒ぎして、お祭り騒ぎになるやもしれません。ふしだらな偽聖女は厳重に処罰して、殿下は新たな聖女ととともに、輝かしい未来を歩まれてくださいませ」
最高司祭は嬉々として語るが、エヴァンの耳には、彼の言葉はいっさい入ってこなかった。
胸に突き刺さっているのは、セシリアがエヴァンを裏切り、不貞を働いたという事実だけである。
あのセシリアが………。
「セシリアが、他の男に抱かれたというのか……?」
握った拳に、自然と力が入る。
掌に爪が食い込み、痛みが走ったが、そんなことはもはや気にもならなかった。
「ええ、その通りです。あれを嫌っておられた殿下の目に、狂いはなかったというわけです」
「セシリアを抱いた男が、俺以外この世にいるというのか……?」
「そのとおりでございます。どこの者かは定かではありませんが、きっと卑しい身分の者です。セシリアに吐かせて、彼女もろとも処刑するのが最善かと。そのようなつまらぬ者たちのことはお忘れになり、殿下は新聖女様が相応の年齢になられたら、新たなる婚約の儀を――」
「黙れ」
司祭の言葉を、エヴァンは刃のような声で遮った。
続けて鋭い目でギロリと睨むと、司祭は息を呑んだように押し黙る。
「――セシリアはどこにいる?」
「地下の牢獄に捕らえております」
「謁見の間まで連れて来い」
「……承知いたしました」
エヴァンの醸し出す殺伐とした空気から逃げるように、司祭が踵を返す。
パタンと扉が閉まり、司祭が出て行くと、エヴァンは拳をますます強く握り込んだ。
「はい。ですが、基礎的な魔法も使えず、大した身分の家柄でもないあのような者は、そもそも聖女にはふさわしくなかったのです。ダリス神も、あんな者に聖女の証を与えたなど、何を血迷われたか。エンヤード王国の神聖なる聖女の歴史に泥を塗ったのは、許しがたい罪です」
それから再び、エヴァンに笑みを向ける。
「教会も総出で、新聖女の誕生を祝っております。今頃報告がいっていると思われますが、陛下もきっと祝福されるでしょう。国民も大騒ぎして、お祭り騒ぎになるやもしれません。ふしだらな偽聖女は厳重に処罰して、殿下は新たな聖女ととともに、輝かしい未来を歩まれてくださいませ」
最高司祭は嬉々として語るが、エヴァンの耳には、彼の言葉はいっさい入ってこなかった。
胸に突き刺さっているのは、セシリアがエヴァンを裏切り、不貞を働いたという事実だけである。
あのセシリアが………。
「セシリアが、他の男に抱かれたというのか……?」
握った拳に、自然と力が入る。
掌に爪が食い込み、痛みが走ったが、そんなことはもはや気にもならなかった。
「ええ、その通りです。あれを嫌っておられた殿下の目に、狂いはなかったというわけです」
「セシリアを抱いた男が、俺以外この世にいるというのか……?」
「そのとおりでございます。どこの者かは定かではありませんが、きっと卑しい身分の者です。セシリアに吐かせて、彼女もろとも処刑するのが最善かと。そのようなつまらぬ者たちのことはお忘れになり、殿下は新聖女様が相応の年齢になられたら、新たなる婚約の儀を――」
「黙れ」
司祭の言葉を、エヴァンは刃のような声で遮った。
続けて鋭い目でギロリと睨むと、司祭は息を呑んだように押し黙る。
「――セシリアはどこにいる?」
「地下の牢獄に捕らえております」
「謁見の間まで連れて来い」
「……承知いたしました」
エヴァンの醸し出す殺伐とした空気から逃げるように、司祭が踵を返す。
パタンと扉が閉まり、司祭が出て行くと、エヴァンは拳をますます強く握り込んだ。