9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
エヴァンがセシリアと出会ったのは、九年前のことである。

王城で開催されたガーデンパーティーの折だった。

エンヤード王国の第一王子として生を受け、物心つく前から次期国王としての教育を徹底されてきたエヴァンは、その頃にはすでに誰もが認める優秀な後継者に育っていた。

礼儀正しく、剣技に長け、聡明で、誰にでも分け隔てなく優しく接する。

そうなるよう周囲に望まれていることは分かっていたし、自分でもそれに応えるべく努力してきた。

もちろん、そのガーデンパーティーの本来の目的が、自分の婚約者選びの場だということも知っていた。

そして周りの期待に沿えるような令嬢を選ぼうと、その日もエヴァンは懸命だった。

だが色とりどりの花々の咲き乱れる庭園で、煌びやかに着飾った同じ年頃の令嬢たちを見ているうちに、不快な気持ちになる。

幼いうちから、親に教えられるがまま、王太子の婚約者に収まろうと必死に自分を磨いてきた彼女たち。

愛らしさを装う瞳は実際は欲に滾っていて、嫌気が差したのだ。

彼女たちが求めているのは、エヴァン本人ではなく、エンヤード王国の王太子だ。

周りの期待に添うよう、エヴァンが必死に作り上げてきた、仮初めの自分。

王太子という肩書きに埋もれてしまった本来の自分は、いったいどこに行ってしまったのか。

エヴァンが王太子、そしていずれは国王になる限り、本当の自分を愛してくれる女性など一生現れないだろう。
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