9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
そんな宿命はとうに覚悟が出来ていたはずなのに、突然自分がひどく哀れに思えてきた。

エヴァンは知らず知らず、談笑する貴族たちから離れ、ひとりで庭の奥深くへと入り込んでいた。

行き着いたのは、茂みに埋もれた、素朴な花ばかりが植えられた花壇である。

忘れられたような場所にポツンとあって、派手派手しい花々が咲き誇るパーティー会場とは、何もかもが違った。

木々もろくに剪定されておらず、草も雑多に生えている。

こんなところまでは誰も来まいと、庭師が手抜きをしているのだろう。

(でも、悪くないな)

荒れ放題の草花がそよそよと風に揺れるそこは、一度だけ行ったことのある、母方の祖父母の田舎の別荘を思い出させ、エヴァンの心を和ませた。

――そこに、天使がいた。

正しくは、八歳か九歳くらいの少女である。

天使かと思ったのは、彼女が頭につけたシロツメクサの花冠が、天使の輪に見えたからだ。
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