9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
彼女が着ているグレーのようなベージュのような飾りけのないドレスもまた、天使の着る服にどこかしら似ていた。

胡桃色の波打つ髪は結い上げられることもなく腰で揺れていて、教会のフラスコ画に描かれた、ダリス神を称える天使を彷彿とさせる。

うずくまり、ひっくひっくとしゃくり上げながら、その天使は泣いていた。

『どうして泣いているの?』

気づけば、そう声をかけていた。

そして驚いたように自分を見上げる彼女を見て、エヴァンは息を呑んだ。

潤んだエメラルドグリーンの丸い瞳に、小ぶりな鼻、愛らしいふっくらとした唇。

その少女は、エヴァンが今まで見たどんな少女よりも飾り気がなかった。

けれど、吸い込まれそうな魅力がある。無垢で汚れがなく、触れるのがためらわれるほどに愛らしい。 

『その、悲しくて、泣いていました……』

少女は戸惑うように、か細い声で返事をした。

まさかこんな庭の奥で、声をかけられるとは思っていなかったのだろう。

この年頃の少女が許可なく城に入り込んだとは考えにくいから、おそらく彼女もガーデンパーティーの招待客らしい。

だが、エヴァンが主賓の王太子であることには、気づいていないようだ。

『何が、君をそんなに悲しませたの?』

『それは……皆が、私の恰好がおかしいと笑うからです』

『おかしい? 君が?』

エヴァンは驚いて、少女の全身を眺め回した。

おかしいどころか、パーティーで見たどの少女よりもかわいらしい。

だがよくよく考えてみると、王族主催のパーティーに着て来るようなドレスではないし、他の令嬢たちは花冠ではなく、煌びやかなアクセサリーを身につけていた。

少女はきっと、それについて言っているのだろう。

『大丈夫だよ。すごくかわいい』
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