9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
エヴァンは正直に答えると、彼女の花冠から白い小さな花をひとつ拝借し、自分の金ボタンに結わえた。

同じ花を身につけることによって、自分は彼女の味方だと教えたかった。
泣いている彼女を元気にして、少しでも自分を印象付けたかった。

自分が王太子だと知られるのは、時間の問題だろう。

その前に、彼女と同じくパーティーに嫌気が差して抜け出してきた、ただの十三歳のエヴァンを覚えておいて欲しかった。

『これで俺も君とおそろいだ。だから怖がらないで』

その瞬間、セシリアはエメラルドグリーンの瞳を大きく見開いた。

『あなたは、ダリス神が遣わした聖人なのですか?』

(彼女の目には、僕がそんな風に見えるのか)

聖人がいるのはダリス教ではなく、オルバンス帝国の国教であるユルスツク教だ。

だがそんな彼女の無知具合ですら純粋の表れに感じて、愛しく思えた。
< 92 / 348 >

この作品をシェア

pagetop