９度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
セシリアが聖女になったばかりの頃、悪い噂を鵜呑みにして嫌悪感を示していた城の人間たちも、次第に彼女を認めるようになる。

だが、その頃からエヴァンの気持ちに少しずつ変化が訪れる。

学園で、貴族子息の陰口を耳にしたのがきっかけだった。

『この間の試験、またエヴァン殿下が一位か。聖女付きの王太子はいいよな。何もしなくとも、聖女の加護で簡単に一位になれるんだから』

『国王になっても、聖女の加護で賢王と称えられるんだろ。運だけで生きているようなものだな』

その瞬間、エヴァンは全身を打ち砕かれたような衝撃を受ける。

それ以来、自分がどんなに努力をしても、すべてはセシリアの手柄になるのではと怯えるようになった。

彼女の勤勉さと純粋さはますます王城内で称賛されていく。

比例するように、エヴァンの評価は下降してった。

次第に、彼女のそばにいるのも、優しく接するのも、怖くなっていった。

エヴァンの功績すべてが、聖女セシリアの存在に霞んでしまう。

セシリアに申し訳ないと思いながらも、無意識のうちに彼女を避けるようになった。

すると、瞬く間に周りの評価が変わった。

『この頃、殿下はセシリア様を避けているようだな。もしかして嫌っているのか？』

『あの誰にでもお優しい殿下が嫌うなど、よほどのことをされたのかしら』

『あれほど聖女を蔑ろにしておられるのに、ダリス神の加護など得られないだろう。成績が優秀なのも、剣技大会で一位になられたのも、エヴァン殿下の実力だ』

『そもそも、あの令嬢は魔法すら使えないんだぞ。本当に聖女なのか？　聖女の加護などなくとも、エヴァン殿下はもともと優秀だ。聖女と偽って、婚約者の座を射止めたのではないだろうか』

噂というものは、小さなきっかけに過ぎなくとも、勝手に大きく広がる傾向にある。
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