9度目の人生、聖女を辞めようと思うので敵国皇帝に抱かれます
冷たい言葉を吐いてセシリアが傷ついた顔をするたびに、エヴァンは彼女に愛されているのを実感した。

エヴァンの暴走は、ますますエスカレートしていく。

数年を経ると、白昼堂々と、別の令嬢を連れ歩くようになった。

セシリアはますます苦しげな顔をする。

他の令嬢とはダンスを踊っても、セシリアとだけは踊らない。ダンスホールの隅で今にも泣きそうな顔をしている彼女を見るのは、至福のひとときだった。

彼女にはまったく触れない代わりに、他の令嬢はいくらでも抱いた。

愛のない、吐き捨てるような行為である。

すべては彼女の傷ついた顔が見たいがためだった。

結婚したあとも、彼女を抱くつもりはなかった。

仲睦まじいところを目撃でもされたら、聖女の加護だけで生きている幸運な王だと、また不本意な噂が立ちかねないからだ。

その代わり、彼女は誰にも抱かれない。

王太子の婚約者に手を出す無知な輩など、この城にはいないからだ。

即位後、エヴァンは大国オルバンス帝国を侵略し、手中に収めるつもりでいた。

聖女の加護なくあの大国を我が物にしたら、皆がエヴァンの真の実力を認めるだろう。

自分が彼女を抱くのは、そのときだと思っている。

それまでは、絶対に抱くつもりはない。

セシリアは、エヴァンだけの、無垢な聖女でなければならない。

彼女はエヴァンに愛を乞い続けるべきだった。

それなのに――。
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