しづき


その時



「汐月に近づくな」



地を這うような低い声が聞こえ、男性と私の距離が引き剥がされて



目の前に、白の大きな背中がそびえ立った。



「白…」


「ごめんね汐月。油断した」



手を取られ、強く握られる。



「おーおー怖い怖い。
べつになんもしちゃいねーよ。
なぁ汐月ちゃん?」


「気安く呼ぶな、汚らわしい」


「ったく、あいかわらず容赦ねーな。
あ!お嬢ちゃん!」



白の背中越しに呼ばれる。



「こいつにはもう時間がねぇ
頭はイカれてやがるが、どうか最後まで
仲良くしてやってくれや」



時間がない…?



ドクンと、心臓が大きく鳴った。



「ちっ、黙れ。
意味の分からないことを言うな」



白は舌打ちをすると
「帰るよ」と私の腕を強く引いた。



お店から出る直前、ふと視線を感じてうしろを振り返れば




──男が、寂しげに笑っていた。







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