Rain or Shine〜義弟だから諦めたのに、どうしたってあなたを愛してしまう〜
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 ホテルのエレベーターに乗り込んでも、恵介はまだ距離を取ったままだった。もどかしさと寂しさを滲ませたような表情になる瑞穂に、恵介は瑞穂の口元に人差し指を立てて首を横に振った。

「部屋に戻ったらお風呂にお湯を溜めるよ。今日はいっぱい歩いたからね」

 何か意味ありげなセリフのような気がして、瑞穂はただ頷いた。きっと恵介のことだから、裏があるに違いない。それがわからないなら、墓穴を掘らないように黙っておくのが一番だ。

 エレベーターが八階に到着し、彼の後に続くように歩いていく。カードキーを差し込むとドアを押し開け、瑞穂を先に中へと入れる。それから外を確認するかのように一瞥すると、勢いよくドアを閉めた。

 瑞穂は机にカバンを置くと、浴室に入って浴槽に湯を貯め始める。部屋に戻ると、カーテンを閉めた恵介がテレビのスイッチを入れたところだった。蛇口から出るお湯の音と、テレビの音が混ざり合い、室内はかなり賑やかになる。

 テレビのそばに立っていた恵介は、優しく微笑みながら手招きをして瑞穂を呼んだ。隣に立った瑞穂の耳元に唇を寄せ、そっと囁く。

「念には念をね。誰がどこから見て聞いているかわからないからさ。会話とかも聞かれたらまずいからね」
「どういうこと?」
「もしかしたら旦那さんが怪しんで調査を入れているかもしれないだろ? 前にそういう案件があったんだ。おかげで決定的な証拠は手に入ったけど」

 瑞穂の顔が恐怖に歪むのがわかった。崇文ならやりかねない……そう思えるようなことが何度かあったから。
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