クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
俺は、乱れた前髪をザッと掻き上げた。


「……仕事に戻る。失礼」


自分を鎮めるつもりで素っ気なく言って、彼から目を逸らし、その前を素通りしようとすると。


「会いたいってさ」

「え?」


通り過ぎざまで声をかけられ、立ち止まった。


「一時間前、歩からLINEが来てた。凛花さんがそう言ってるから伝えてくれと。何故、お前に直接連絡しない。遠慮してるのか?」


純平は、ポケットから取り出したスマホを軽く揺らして示す。


「凛花が……俺に?」

「お前以外、誰がいる。俺か?」


一瞬戸惑った俺に、怪訝そうに眉をひそめた。
俺は、かぶりを振って応えた。


「そんなこと、初めて言われた。こんな目に遭わせて、顔も見たくないと言われるのも覚悟していたが……」


憂い顔で顎を摩る俺に、純平は遠慮なく胡散臭そうな顔をした。
そして。


「歩が言うように、一度腹を割った方がよさそうだな、お前ら」

「え?」

「五分待ってやる。さっさと帰り支度しろ」


俺に一方的な命令をして、自分はサッと踵を返す。


「歩に、奎吾を連れて帰宅すると連絡しておく」


横柄に片手をスラックスのポケットに突っ込み、エレベーターホールに向かう背中を、俺は当惑したまま見送った。
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