クールな警視正は新妻を盲愛しすぎている
「え? あ、ちょっ……」


穏和な顔立ちに似合わず、強引に俺の腕を取り、グイグイと背中を押してくる。
俺はほとんどつんのめるようにリビングに入り、その奥にある、メゾネットの二階に上がる階段を見遣った。


純平の家に来るのは、初めてじゃない。
客室が二階にあるのは知っている。


歩さんは「一番奥です」とだけ言って、再び廊下を戻っていった。
風呂に入った純平の着替えを準備するのだろう。
俺はリビングのドア口で一人、途方に暮れた。


「参ったな……」


苦い思いで独り言ちながら、ガシガシと頭を掻く。
――凛花は寝ていても可愛すぎて、俺はつい手を出したくなる。
しかし、ここまで上がり込んで回れ右するのも、いかがなものか。


俺は彼女が起きていることを願い、意を決して室内に進んだ。
階段を上り、教えられた通り、一番奥の部屋まで進む。
ドアの前で両足を揃えて立ち止まり、深呼吸をして……。


「……凛花。俺だ。……起きてるか?」


コツコツと、意識してゆっくりノックする。
すぐに反応はなく、眠っているのだろうと思った。
無言でかぶりを振って、廊下を引き返そうとした時。


「奎吾さん……?」


静かにドアが開く音がして、遠慮がちな声が続いた。
足を止め振り返ると、細く開いたドアの隙間から、パジャマ姿の凛花が顔を覗かせていた。
< 145 / 213 >

この作品をシェア

pagetop