もう一度会えたなら
 しばらくはのんびりしよう。
 自宅に戻った美紀は、久しぶりに母に電話をかけた。
 母からの「どうしたの?」の言葉を皮切りに、美紀は大希との別れを伝えた。大希は何度も美紀の母と顔を合わせていて、関係も良好だった。しかし、美紀の気持ちを察してか、母は理由も聞かず、ただ美紀のメンタルを気遣った。
 母が、大希との結婚を心待ちにしていたであろうことは分かっていた。婚約の報告をまだしていなかった事だけが、せめてもの救いだった。母にだけは言えない。口が裂けても絶対に――。

 美紀の父は、営業職に就いていて仕事ぶりも良く、温厚で人当りも良く誰からも好かれていた。その上ビジュアルも良かったので、よくもてていた。
 そんな父の唯一にして最大の欠点は、浮気性であったことだ。
 度重なる浮気に、母は神経をすり減らせていたが、美紀がいるから――その一心で耐えていたのだ。そうして、美紀の就職が決まったと同時に父とは離婚した。高給取りの父との生活は何不自由ないものだったが、母は離婚を選び、パートを掛け持ちする生活を選んだ。
 そんな母の苦労を誰よりも知っている。だからこそ、たった一度の浮気であろうと、決して許すことは出来なかった。

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