秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 階段を下りたところで、白髪を上品に結い上げた祖母と行き合った。祖母は、王家から降嫁した元王女だ。老いてなお可愛らしい人で、目尻や口もとに浮かんだ皺すらも彼女をより朗らかに、魅力的に見せていた。さらに祖母はその所作も気品にあふれ、淑女の鏡のようだった。
「うん! 今日も鍼の施術を頼まれてるの」
「あらあら、毎日引っ張りだこね。また私にも、美容鍼をお願いね。気をつけていってらっしゃい」
 祖母は淡い水色の瞳を柔和に細め、コロコロと笑いながら手を振った。そんな仕草のひとつひとつまで、祖母はまるで銀幕のスタアのように様になっていた。 
「はーい! いってきます!」
 私は鞄を持つのと逆の手をひらひらと振り返して答え、足取り軽く屋敷の玄関を出て格子状の門扉をくぐり、馬車の乗り場を目指して踏み出した。

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