秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 私が今日鍼を頼まれているご婦人は、引退したらここへ入所することを現役時代から決めていたという。そうして王都で営んでいた商店を息子に任せた後、計画通り夫婦でここに移ってきたそうだ。
 ロビーの受付では、スタッフの女性が感じの良い笑みで迎えてくれた。
「ごめんください。こちらに入居するマドレーヌ婦人と約束があって訪ねてきたのですが」
「では、こちらの帳簿にお名前とご連絡先の記入をお願いいたします。お手数をおかけして申し訳ございませんが、ご家族以外の訪問はすべて、こちらで入館記録を取らせていただいております」
 促されるまま帳簿に必要事項を記入して受付を済ませ、私はマドレーヌ婦人の居室を訪ね、鍼の施術を行った。
 マドレーヌ婦人の悩みは冷えとむくみ。鍼の施術をしたからと、即効症状が改善するわけではない。けれど今日の施術で血行を促進し、全身のめぐりを整えたことで、明日はきっと軽い体で爽快な目覚めを迎えられるだろう。
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