秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 小柄なご主人は、その肩に大柄の男性を半ば引きずるように担いでいた。担がれている男性の年齢は私よりひとつふたつ年上くらい。簡素な装いは平民階級の町人によく見るものだが、男性からは不可思議な気品を感じた。
「左肩の応急処置だけでも、なんとかなりませんか!?」
 素早く視線をやると、ご主人の言葉通り男性の左肩は着衣が大きく裂け、剥き出しの肌から出血していた。
 ……かなりの重傷だわ!
 パッと見でも、男性の症状はかなり重篤とわかった。だたし、ここで言う「重傷」は左肩ではない。より深刻なのは、たぶんお腹だ。
 前世の私は厳密には医療従事者ではなかったけれど、基本的な応急手当は学校で学んだし、消防庁が実施する救命講習にも多く参加してきた。それらの経験が、警鐘を鳴らしていた。
 男性は荒く速い呼吸を繰り返す。その口もとは血で汚れ、顔色は真っ青だ。意識も朦朧としている。
 肩の傷で吐血と意識障害まで起こしているとは考えにくい。
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