秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 気づいた時にはもう、こんなふうに声を張っていた。頭であれこれ考えるよりも先に、心が男性の救命を決断していた。
 不思議なことに、さっきまで壊れそうに刻んでいた鼓動は鎮まり、心も体も不自然なほど凪いで静かだった。
「君は応急処置の心得があるのか!? それはありがたい!」
 全員が一斉に私を振り返り、安堵の表情を浮かべた。
「はい。ただし、あくまで応急での処置になります。その間に、どなたかお医者様を呼んできてください」
「わかりました! 私が別荘地に行ってお医者様を探してきます!」
 私の声に夫人が応じ、ひとり玄関を飛び出していった。
「処置にはどうぞ、あちらの部屋を使ってください!」
 受付の女性がすぐに空き部屋を示してくれる。
「すみませんが、この鞄を持ってきていただけますか」
「は、はい!」
 私は持っていた鞄を受付の女性に手渡すと、男性の左脇の下に入り込むようにして、ご主人の反対側から腰のあたりを一緒になって支えた。
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