秘密の癒しチートがバレたら、女嫌い王太子の専属女官(※その実態はお妃候補)に任命されました!
 俺の前には一組の若夫婦が、仲睦まじく寄り添って歩いていた。漏れ聞こえてくる会話から夫人が妊娠中で、子供が生まれてくるのをとても楽しみにしていることがわかった。
 子は、国の宝だ。
 俺は微笑ましい思いで、夫婦の後ろから宿に続く道をゆっくりと進んだ。
 ところが、宿と町の中間地点で事件は起こった。
 切り立つ崖に沿うように整備された山道。その崖肌で、突然崩落が発生したのだ。
 見上げると崖の一部が崩れ、落石が俺たちを襲っていた。ほんの一瞬、火薬の匂いが鼻腔を掠めたような気もしたが、それを気にしている余裕はなかった。
「危ない! 崩れるぞ、逃げろ!!」
 俺ひとりであれば、上空から降ってくる落石を飛び退いて避けることは、さして難しいことではなかった。しかし、俺のすぐ前には身重の夫婦がおり、彼らを捨て置くことはできなかった。
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