不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
とても怖かったけれど、あのスリルは斗馬さんに誘われなければ経験できなかった。ある意味、一生心に残る記憶かもしれない。
そんなことを思いながら目を閉じたその時、瞼の向こうが微かに暗くなった。
『こんにちは。どこから来たの?』
頭上から流暢な英語が聞こえて、目を開ける。
私を見下ろしていたのは、青い瞳に透けるような金髪の、若い外国人男性。このクルーズ船は人種も国籍も様々な人々が利用しているため、彼の乗船客のひとりだろう。
でも、なんで私に話しかけているの……?
むくっと起きて周囲をキョロキョロしてから、人差し指で自分を指さす。彼はにっこり微笑んで頷いた。
もしかして、ナンパ? いや、だとしたら左手薬指の結婚指輪に気づかないはずがない。
正当な理由があって近づいてきたのなら邪険にするのも失礼な気がして、曖昧に微笑む。
『こんにちは。日本からです。あなたは……』
『イギリスから。この船には友人と乗っているんだけど、まさかこんな美人に巡り合えるとは幸運だな。僕はアジア人の美しい黒髪が大好きなんだ』
……なんだ、やっぱりナンパじゃない。気を遣って損をした。