不屈の御曹司は離婚期限までに政略妻を激愛で絡め落とす
さすがは斗馬さん。こういうところはきっちりしている。なのに、どうして浮気なんかしたんだろう。私が傷つくと想像しなかったの……?
胸に一抹の寂しさを感じながら通話を切り、流しのタクシーに向けて手を上げる。
間もなく目の前で止まったタクシーに乗り込むと、なにげなく車窓を眺めた。
私は斗馬さんを許したいのか、許したくないのか、好きなのか、嫌いなのか。
自分の気持ちが全然見えないけれど、彼を想うと胸の奥が締めつけられる、その痛みだけは確かに感じた。
「ただいま帰りました」
そう言って玄関に入った瞬間、美味しそうな香りが鼻腔をくすぐった。こっくり煮込んだデミグラスソースのような、複雑でかぐわしい香り。
昼ご飯以降はなにも食べず残業していたので、思わずお腹が鳴る。
「おかえり、千帆」
リビングに続くドアが開いて、斗馬さんが顔を出す。
腕を捲ったワイシャツに、スラックス姿。それに極上の甘い笑みまでプラスされて、ドキッと胸が跳ねる。
昔から彼を知る身とはいえ、こうして自分の帰りを待っていてくれるというシチュエーションは初めてなので、なんだかくすぐったい。