毒令嬢と浄化王子【短編】
 いつも手袋をしているのは火傷の跡を隠すためという噂は街にかなり広がっているようで、私の手を見て驚いて声を上げる人がいた。
 騙していてごめんなさい。
 意識を手に集中すると、指先に毒が集まっていくのを感じる。
「私が何とかします」
 人差し指の先に集めた私の毒。
 強さを調整することもなく、思い切り集めた毒。
 一番上に重なっている材木に触れた。
 すると、材木……かつて木だったそれは、雑草と同じように枯れてあっという間に姿を消してしまった。
「ど、どういうことだ?」
 次々に指先で材木に触れれば、私の毒で材木になってもなお植物としての本能を残していた木は枯れて崩れなくなってしまう。
 ポロリと涙が一筋流れる。
 私は……バケモノだ。
 こんな恐ろしい力を持っているのだ。指先で触れただけで男たちが何人も力を合わせないと動かせないような太くて大きな材木さえ一瞬で消し去ってしまえる……。
 音が消えた。
 街の人たちが黙って私と私が消し去っている材木を見ている。
 何が起きているのか、理解しているのはカール一人だろう。
 なん十本も複雑に折り重なっていた材木が1本また1本と姿を消し、下敷きになっていた人たちが助け出されていく。
 怪我の手当てを施され、家族に無事を喜ばれ……。
 ナターシャちゃんもお父さんと抱きあって喜んでいる。
 私のことを遠巻きに不思議そうに見ていた人たちの何人かが近づいてきた。
「だ……だめ……近づかないで……」
 かすれた声で小さく呟く。
「一体、今のは何だったんだい?魔法?」
「手は火傷なんてしてなかったんだね」
「なんで、今まで隠していたんだい?」
 だめ、駄目。
「近づかないでっ。私は毒なの……黙っていてごめんなさい。指で触れたから、材木は毒で……枯れて腐って朽ち果てたの……私が、材木を……毒で……」
 皆の前で能力を見せてしまったのだ。
 隠しておくことなど出来るわけもない。
「ごめんなさい……」
 ポロポロと涙がこぼれ堕ちた。
「ど、毒……」
「毒だって?」
 街の人たちが驚きの声を上げている。
「ミリアっ!」
 え?
 涙にぬれる顔が、たくましい胸に押し当てられる。
 カールが、私を抱きしめていた。

「君は、最高に素敵だっ!」
 カール……。
「話して、カール、毒が……私の毒が……」
 カールが私の手を取った。
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