毒令嬢と浄化王子【短編】
「駄目、この手には今、普通の何倍もの毒が……!」
 必死に振り払おうとしたのに、カールの大きな暖かい手が私の手を力強く包み込んで振りほどけない。
「だめ、いや!カール!あなたを毒で体調を崩させることはしたくないっ!離して!」
 カールの手に包み困れたまま、私の指先をカールは顔の前まで持って行く。
「大丈夫だよ。僕は毒には強いんだ」
 カールが笑った。
「駄目、駄目、やめてっ!」
「聞いたことない?生まれた時から少しずつ毒を接種して毒に強くしていく人がいるって」
 聞いたことがある。毒殺されないように慣れさせるって。高位貴族や王族ではそうして育てられる者がいるって。
 もしかして、カールはそうして育てられたの?
 だったとしても……。
 一瞬で材木を朽ち果てさせる私の毒が、いくら毒に慣らされて毒に強いといってもなんともないわけがない。
「ミリア……僕は、大丈夫だよ」
 カールが、私が一番毒を集めた人差し指の指先に唇を当てた。
「きゃぁー」
 街の人から悲鳴が上がる。
「あはは、ミリアちゃんにも春が来たかなぁ」
「街の人を助けてくれてありがとうな」
「手袋は毒から皆を守ってくれてたのか」
「綺麗な手をしているのに、隠しているのは大変だったろう」
 え?
 歓声が沸き起こっている。
 すっかり涙が止まった。
 カールがいつの間にか私がはずした手袋を拾って私の手にかぶせてくれた。
「さぁ、後片付けしようかね」
「今度は倒れないようにしっかりと対策練らないとな」
「おっと配達の途中だった」
 怪我をした人たちは大したことは無かったことを確認すると、人々はそれぞれの場所へと戻っていった。
「ミリアちゃん、疲れてないかい?お茶用意するから飲んでいきな」
 パン屋のおかみさんが私を手招きしている。
「私……でも……毒……」
 なんで?
 どうして、笑顔で手招きしてくれるの?
 バケモノだよ……私。
 毒を持っていて……この手に触れたら……。
「ああ、随分便利な力を持っているね。でも、色々と不便もあるんだろう?困ったことがあれば何でも言ってちょうだいよ」
 便利な……力?
「こ、怖くないんですか?私……のこと……こんな人も傷つけるような毒を持っているのに……」
 おかみさんが、私の背中をぽんっと叩いた。
< 25 / 29 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop