毒令嬢と浄化王子【短編】
「馬鹿な子だね。もしかして、毒のことが知られたら怖がられて嫌われるって思ってたのかい?ほら、見てごらんあそこ」
 おかみさんが指を刺したのは、建設現場で働く人だった。手には金づちが握られている。
「それから、あっちも」
 次に指さしたのは、剣を腰に下げた警邏だ。

「人を殴れば殺すことができる凶器をもった男と、人を切り殺すことが出来る凶器を持った男がいるよ。怖いかい?」
 おかみさんの問いに首を横に振る。
「私だって、パンを作るときにゃぁ、殴れば人を殺せるような太くて丈夫なめん棒を持ってるんだけど、怖いかい?」
 首を今度は激しく大きく横に振ります。
「怖くなんてないです。いつも笑顔で優しくて……全然、怖くないですっ」
 おかみさんがにこっといつもの笑顔を見せてくれた。
「そういうことだよ。人を傷つける物なんて誰だって手に取ることができるだろ?でも、それが自分を傷つけると思わなきゃ怖くなんてないさ。ミリアちゃんは、一度だって街の人間を傷つけたりしてない。それどころか不便だろうに、傷つけないようにと分厚い手袋に厚手の外套を身に着けて……」
 もう一度おかみさんは私の背中を軽くぽんっと叩いてくれた。
 毒のことを知っても、恐れて私から距離を取ろうとしないどころか……こうして触れてくれる。
「そうだよ、うちの旦那なんて、片手で首を折ることだってできちゃう腕してるけどね。怖いどころか、こんなちっちゃな虫がいただけで大騒ぎして逃げてくよ」
 周りにいた別の人が笑っている。
「そうそう、口だって人を傷つける凶器さ。誰だって持ってるよ。人を傷つける恐れのあるもんなんて。問題は、それを使うかどうかだろ?」
 街の人たちが次々に私を励まそうと声をかけてくれる。
「なんだか分かんないが、ほら、これ持って行ってくれ。街の人を助けてくれたんだ!」
 カールさんが持っていた籠に、果物がいくつか放り込まれた。
「わ……私、あの……」
「なんだい?」
「また、街に来ても……いいですか?」
 私の質問に、周りにいた人間が笑い出した。
「あはは。あったり前だろう。街の人間を助けてくれたミリアちゃんを街から追い出すようなやつがいりゃぁ、そいつこそ追放だ」
「そうだよな。うん。こんどからもっと一杯来てくれていいんだぞ?ちょうど荷物持ちしてくれる恋人もできたことだし」
 え?
 荷物持ちの恋人?
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