冷血公爵様が、突然愛を囁き出したのですが?
 今思えば、何の事情も知らないマリエーヌには到底理解出来ない事だったと思う。
 それまで名前を呼んだこともない、自分を無視してきた男がいきなり愛の告白をしだしたのだから。
 マリエーヌはびっくりしただろうが、僕も後戻りをする気はない。

 前回、僕が事故にあったあの日。今回も同じ場所で土砂崩れはあったが、僕はその日の視察を延期にしたため無事だった。
 やはりあの出来事は、ただの夢などではなかった。
  
 執務室で仕事をしていた僕は、机の上の書類を種類ごとにまとめて、それぞれ別の封筒に入れていく。
 
 僕は元々、執念深い人間だ。
 マリエーヌを虐げた使用人達も、ただ解雇するだけでは済まさない。
 マリエーヌが使ったと嘘をついて、勝手に屋敷の金を横領した奴らの罪を、白日の下に晒して罰を受けてもらう。
 その地位も財産も全て奪われ、これまでの行いを後悔しながら生き続けるがいい。
 
 マリエーヌや僕を殺した連中も野放しにする訳にはいかない。
 あの時、奴らは生きている僕の前でベラベラと雇い主の事を話していたからな。誰の差し金かは分かっている。
 コイツには死んだ方がマシだと思える程の苦痛を与えてやろう。
 
 まとめた封筒を補佐官に託して、時計を見ると間もなく正午を迎える所だった。
 危うくマリエーヌとの食事の時間に遅れる所だったな。
 
 僕は部屋を飛び出して早足で彼女の部屋へと向かう。
 仕事場である執務室から彼女の部屋までの距離がもどかしい。
 今度の休みには彼女の許可をもらって部屋をもっと近くに移動するか。
 いや、彼女の部屋はそのままにして、執務室を移動させよう。
 
 そんな事を考えているうちに彼女の部屋に到着した。
 ドアを開けると、愛しのマリエーヌが目を見開いてこちらを見ている。
 今日会うのはもう五回目になるが、何回会ってもマリエーヌは変わらず可憐で美しい。
 
「マリエーヌ、早く君に会いたかったよ。今日は天気がいいから中庭で食事をしようか」

 そう告げて彼女の手を取り、その甲にキスを落とす。

 すると、マリエーヌは真っ赤に顔を染めて戸惑う様な可愛い反応を見せた。
 その反応に期待をせずにはいられない。
 少しでも僕に好意を持ってくれていると嬉しい。
 だけどそれはもう少し先の事になりそうだ。

 僕はいつもの言葉を、愛しくて仕方が無い彼女へ伝える。

「マリエーヌ、愛しているよ」
 
 君の名前を呼べる事を、君に愛を伝えられる事を、僕がどれほど幸せに感じているかを、君は知る由もないだろう。
 
 僕は知っている。

 今この瞬間の幸せが、決して当たり前では無いことを。
 ある日突然、当たり前の日々が変わってしまう事も。
 
 だからこそ、今この瞬間を大切にしたい。
 一分一秒でも長く、マリエーヌと共に生きていきたい。

 これからも、僕は何度でも君の名を呼び、愛を囁き続けるだろう。
 死が二人を分かつまでは――
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