最後の夏をもう一度
帽子を深くかぶり、外にあるトラックからダンボールをとり出す。
そして、一度、ダンボールを地面に置き、持ち直す。
持ち直すときにふと目に止まったものがあった。
昔からある神社だ。
辛いことがあってからは、無自覚に鳥居をくぐるのを避けていた神社。
今なら、入れるだろうか。
荷物をトラックに戻し、手を握りしめる。
大好きな人との楽しい思い出がつまった神社。あのときは、ちゃんと向き合うことが出来なかっ た。
でも、今なら、今なら向き合えるかもしれない。ほんの少しの期待を胸に俺は足を踏み出し、鳥居をくぐる。
神社の上空は木々に覆われており、生ぬるい風が吹いてくる。木々の間から漏れる光がとても綺麗だ。
そして、今日は何かイベントがあるのだろうか。
沢山の人が屋台をたてるなど、何かの準備をしている。
活気にみちあふれていた。
「楓くん、久しぶりだね」
そう声をかけてきたのは、俺の大事な人、この世にはいない大事な人のお父さんだ。
「お久しぶりです」
「大きくなったな〜」
大事な人のお父さんとは仲が良く、まるで家族のように可愛がってもらっていたのを今でも覚えている。
「二年経ったんですから、俺だって大きくなりますよ」
「そっか。もう、二年も経ったのか」
彼は遠くの空を見つめる。
その表情には、切なさと悲しさ、それ以外の感情も混ざっていて見るだけで胸が締め付けられる。
「そういえば、今日、何かあるんですか?」
俺はその表情を見たくなくて、話題を変える。
「花火大会だよ」
「花火大会ですか……」
最後に花火大会に行ったのはいつだったか。
あの頃は本当に楽しかった。毎年、大事な人と花火大会に行って、終わったらまた来ようと約束して。
「久しぶりに楓くん、花火大会に来ないかい?」
「気が向いたら、行きたいと思います」
気が向いたらと俺は言っているが、行く気なんて全く無い。
一人だと、もう大事な人はこの世には居ないと今よりももっと実感してしまうから。
「わかった。来てくれたらイカ焼きサービスしてやるよ」
「ありがとうございます」
きっと、俺よりも苦しかったであろう彼は今、こうして切ないような笑顔でこの世に居る。
二年も経った、だから元気、そんなわけない。大事な人が居なくなったこの世は寂しくて辛くて。
大事な人が居なくなって、まだニ年なんだ。
「どうして……
「綾野さーん!」
どこからか彼の名前を呼ぶ声が、聞こえた。
「楓くん、どうかしたのか?」
「いいえ、何もありません」
どこか割り切ったように見える彼。
そんな彼にどうしてそんなに笑えるのか、そんなことを聞くのはだめだと思った。
「じゃあ、行って来るから」
「はい」
駆け足で声の聞こえた方向に向かう彼。
その後ろ姿はかっこよく見えた。
それと同時に俺にはなれない、そう感じた。