王太子の婚約者は、隣国の王子に奪われる。〜氷の公女は溺愛されて溶けていく〜
(どうして私たちはこんな関係になってしまったのだろう)

 シャレードはそっと息を吐いた。
 幼い頃から決められた婚約のため、二人はともに王宮で同じ家庭教師のもとで学んだ。
 シャレードはなにをやらせても優秀で、カルロの方がひとつ歳上にもかかわらず、勤勉に学ぶ彼女とことあるごとにサボろうとするカルロとでは、当然ながら差ができた。
 カルロはそれが面白くなく、だんだんシャレードに当たるようになった。

「カルロ様もちゃんと授業を受けたら、私なんかより……」
「それは嫌味か、シャレード?」

 青い瞳が翳り、強い視線でシャレードを睨みつけた。
 カルロはプライドだけは高かった。自分より出来のいい彼女が腹立たしかった。
 
「そういうわけでは……」

 苛ついたカルロは、プイッと去っていく。
 真面目にやればできるのにと、カルロを励ましているつもりが、咎められていると思われ、シャレードはどんどん疎まれるようになっていった。
 
 もともとカルロはわがままで誰の言うことも聞かなかったが、歳を取るにしたがって、さらに横暴になっていった。
 カルロに甘い王妃の機嫌を取ろうと、王は彼を注意することもなく、しっかり者のシャレードに期待し、カルロを頼むと言うばかりだった。
 カルロに公務の予定を告げても無視するか覚えていないので、シャレードに伝えられるようになり、そのうち、彼女がこうしてカルロを公務に引っ張っていくことになった。

(損な役割だわ)

 シャレードだって、そう思う。それに不満がないでもなかったが、公爵家に生まれたからにはそういうものだとあきらめていた。
 父の公爵は「バカは御しやすくていいじゃないか。結婚したらこっちのもんだ」とせせら笑うだけで、それまで王太子をしっかり捕まえておけと言う。フォルタス公爵自体、男の甲斐性だと愛人を囲っているくらいなので、カルロの女性問題も気にならないようだった。
 母は我関せずというスタンスで、相談するには弟は幼い。
 シャレードは孤独で、つらさ、悲しさ、悔しさをごまかすうちに、どんどん表情が失われていった。
 
 ズキッ

 カルロと歩きながら、シャレードは胸の痛みを感じて、立ち止まりそうになる。
 心的ストレスのせいか、このところ、たまに胸が痛む。
 体調もよくなく、めまいがすることもあった。
 文句を垂れ流すカルロをなだめつつ、これが自分の役目だから仕方がないと唇を引き結んだ。



 カルロを公務に連れていくシャレードの様子を見ていたラルサスはあきれた。

(王太子の所業とは思えないな。シャレードがかわいそうだ。どうしてこれがまかり通ってるんだ……)

 それでも、シャレードはカルロの婚約者だ。ラルサスは切なくなった。

 ──カルロにはシャレードはもったいない!

 彼らの後ろ姿をただ見送るしかできないラルサスの肩を、フィルがポンポンと叩いた。
 
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