禁断の味はチョコレートのように
車は九時過ぎにマンションの前に着いた。
「忘れ物は無い?」
「はい。今日はありがとうございました」
律儀に杏が頭を下げると、
「今度はそうだな、来週の木曜日の夜は空いてる?」
翔太の言葉に杏が警戒した表情になるが、それをわかって翔太は笑った。
「知り合いがイタリアンの店を始めたんだ。
まだまだ客も少ないから応援がてらそこに行こうと思ってね。予定はどう?」
「お知り合いならそれこそ私を連れて行くのは不味いんじゃ」
「大丈夫。彼も会の会員なんだ。
で、空いてる?」
そうですか、と杏が呆れ気味に言ってスマートフォンを出すとスケジュールを確認する。
「場所に寄りますが多分八時以降なら」
「了解。その日は酒を飲みたいから近くの駅集合にしよう。
後で詳細をメールするよ」
はい、と答えながらスマホに予定を入力している杏の頬に翔太は手を伸ばす。
ビクッと顔を上げた杏に、翔太は楽しげな表情で言う。
「今日は楽しかった。
木曜日、杏ちゃんに会えるのを楽しみに仕事を頑張るよ。
疲れたろうからゆっくり休んで」
ドアのロックが外れる音がして、杏は慌てるように車を降りた。
「杏」
ドアを閉めようとしたら、そう呼ばれて杏は驚き車の中を覗き込んだ。
「またね」
悪戯が成功したかのような顔。
杏の頬には熱が帯びている。
車のドアを閉め、杏は振り返らずにマンションに入った。
急いで自分の家に入り、電気をつけてベッドにもたれかかる。
危険だ。あの人は危険だ。
自分の何かがそう告げる。
でも楽しかった。それは本心から。
ただ異性と遊んだだけで何一つやましいことは無い。
今日のことはきちんとお礼を言っておくべきだ。
杏は文面を考えている自分がドキドキとしている事に気付きつつも、それが何による物かを考えることはしたくなかった。