指輪を外したら、さようなら。

「大体っ! 美幸だって離婚を拒んでるんでしょう!? あなたとは不倫がちょうどいいってことじゃない! あなたを愛してるなんて言っても、結局他の男と結婚して、妊娠までした。その上、流産したからって、またあなたと寝るような女よ? そんな女と結婚するために、この事務所を捨てるの!!?」

 なぜ、忍が美幸のことをこれほど詳しく知っているのだろうと、不思議に思った。

 もしかしたら、忍は旦那と美幸を監視していたのだろうか。俺同様に人を雇えば、簡単に調べられる。

 だが、肝心なことは知らないようだ。

 恐らく、東山も。

「二年前に美幸が流産した子供は、俺の子じゃなかった」

 俺以外の三人が一同に目を見開き、俺を凝視した。

「そもそも、美幸が俺と結婚したのは、東山さんの子供に父親を与えるためだった。最初から、俺に愛情なんて欠片もなかった」

「そんな――」

 東山が呟く。

「本当なのか、美幸」

 美幸は答えない。

「流産と同時にそれらのことがわかって、俺たちは別居することになった。それも、あなたには黙っていたようですが」

「どうして……」

 そんなの、聞くまでもない。

 東山が罪悪感を抱かないように、だ。

 自分のせいで美幸の人生を狂わせているとわかれば、人の良さそうな東山は別れを選ぶかもしれない。美幸はそれを避けたかったのだろう。

 見ると、美幸は腿に置いた両手でスカートを強く握っていた。拳に血管が浮き出るほど、スカートが皺になるほど、強く。

「美幸。あんた、私より下衆いことしてんじゃない」と、忍が楽しそうに口元に笑みを浮かべて言った。

 どこまでも歪んだ女だ。

「そこまでしておいて、今更修と――」

「――美幸」

 東山は、忍の言葉を遮って美幸に言った。

「結婚しよう」

「――っ!?」

「はっ!? 何言ってんの? 離婚はしないって言って――」

「――俺と結婚して、一緒に由麻と恵麻を育ててくれないだろうか」

「冗談じゃないわよ! 私は離婚もっ! 娘を手放すこともしないわよっ!!」

 キャンキャン吠える忍を尻目に、東山と美幸は見つめ合い、完全に目で会話をしている。

 俺はすかさず記入済みの離婚届を美幸の前に差し出した。ペンも。

 だが、美幸はチラリと視線を落としただけで、ペンを握ろうとはしない。

「美幸」

 東山の声に、美幸が肩を震わせる。

 美幸が、東山をどれほど愛しているのか、隣にいてもよくわかる。

 忍とは違うが、美幸はいつも好戦的で太々しい。それが、今日は借りてきた猫のように大人しい。

「有川さんと離婚してくれ。俺も必ず、忍と離婚する。お前が再婚できるようになるまでの半年の間に、必ず。だから、頼む――」

 東山が頭を下げ、美幸の唇が震えた。

 キュッと唇を結び、目を細める。

 目尻から頬に、涙が一筋伝った時、美幸がペンを持った。

 無言で、離婚届に記入していく。

「ちょっと! あんたが離婚しても、私は離婚しないわよ!? あんたに娘たちを渡すなんて――」
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