指輪を外したら、さようなら。
「で、三十代夫婦の約半数はレスだって」
「そんなに!?」
更に、驚いた。
「そ。しかも、レス夫婦の子供はいじめられたり、身体が弱かったりするんだって」
「え――」
さなえの表情が凍りつく。
「あくまで統計上だけど、レス夫婦自体、どちらかか両方がその現状に不満を持っている場合がほとんどらしいの。つまり、円満な家庭じゃないってことね。それは、子供にかなりストレスを与えるらしくて」
あきらも、さなえを脅かそうと言ったわけではないだろうけれど、さなえの不安を思うと、ちょっと言い過ぎじゃないかと感じた。
「けど、さなえと大和の場合は、きっかけが掴めないだけでしょう? 気持ちが冷めたわけじゃないんだから」
「そうだよ! さなえが家事と育児と仕事の手伝いに追われて遊ぶ暇もないって心配してるくらいなんだから、大和はさなえを大事に想ってるよ」と、麻衣も私の援護をする。
「……どうかな」と、さなえが不安そうに呟いた。
「お洒落どころか化粧もろくにしない私には、そんな気になれないのかもしれない……」
お洒落か……。
いつも身ぎれいにはしているけれど、さなえが自分磨きにお金をかけている様子はない。
今更だけれど、独身でお金の自由がきく私たちを、さなえはどう思っているのだろう。
「じゃあ、その気にさせたらいいじゃない」
「どうやって?」
「たとえば――」
私はスマホを取り出し、手早く検索した。
「あった! んーっと、今からなら――」
時間を確認する。
デザートはしっかり食べたいから――。
「一時間後でいいかな」
「何が?」と、麻衣。
「美容室。カットとトリートメントを予約したから、早く食べちゃお」
さなえは少し戸惑い、あきらと麻衣は納得の表情。
「じゃ、お先に取りに行くね」
立ち上がったあきらの視線に気づいた。
「私も」と、私も席を立つ。
「帰りが遅くなるって、大和にメッセ送っといた方が良さそうね」
「ん。大斗くんには悪いけど、今日は徹底的に磨かせてもらお」
「ね、千尋」
麻衣が背後に立っていた。
見ると、さなえはテーブルで飲み物を飲んでいる。
「美容室の近くに、ネイル出来るところない?」
「ネイル?」
「うん。さなえ、昔はネイル好きだったじゃない。今は爪が短くても可愛くしてもらえるみたいだし」
「それ、いいね」
当のさなえを置き去りにして、私たちは勝手に美容室の後でネイルの予約も入れた。
大和には、あきらからメッセが届いたはず。なんて返事があったかは、聞かなかった。
「寝室が別なのって、悪いことばっかりじゃないみたいよ?」と、あきらが大皿一杯のスイーツを眺めながら、言った。
さすが、人気のホテルビュッフェなだけあって、スイーツも充実している。
十種類のミニケーキにアイス、ワッフル、ゼリー、プリン、白玉団子にわらび餅、など。
あきらはミニケーキを全種類、麻衣はワッフルにアイスと生クリームとチョコソースをトッピングして、さなえはゼリーとプリンを三つずつ、私はフルーツポンチに白玉を入れて盛って来た。