指輪を外したら、さようなら。

 一人寂しくカップ麺を食べるはずが、冷麺にありつけた。比呂も一緒に。

 奥さんのところから、私の元へと帰って来てくれた。

 嬉しかった。

 会いたかった。

 認めたくはないけれど。

「友達と会ってたんだっけ?」

 麺をすすりながら、比呂が聞いた。

「うん」と、私も麺をすすりながら頷いた。

 美味しい。

「冷麺、好きか?」

「うん」

「麺類全般、好きだもんな?」

「うん」

 比呂は、満足そうに笑った。

「楽しかったか?」

「ん?」

「友達と会って来たんだろ?」

「うん」

 比呂の質問攻めはいつものこと。私が線を引こうとすればするほど、その線を越えようとしてくる。

 けれど、今日の比呂はいつもと少し違った。

 単純にグイグイくる感じじゃなくて、なにか、緊張を紛らすように言葉を探している感じ。



 やっぱり、奥さんと何かあったんだ……。



「会社にはお土産買って来たの?」

「ああ……。いや……」

 煮え切らない返事。

「どっちよ」と、私は笑った。

 比呂の考えていることは、なんとなくわかる。

 比呂が別居中であることは、会社のみんなが知っている。だから、結婚式で行ったからと東北のお土産を渡せば、誰の結婚式だったかを聞く人もいるだろう。

 それを考えると、憂鬱なのだろう。

 だから、会社の人には言うつもりはなかったはず。

 会社で飛行機の予約をして、その画面を部長に覗かれたりしなければ、お土産なんて買っても来なかったに違いない。

『有川、旅行か?』なんて、部長が大きな声で言わなければ。

「親戚の結婚式、でいいんじゃない?」

「ん?」

「間違いじゃないでしょ?」

「ああ」

 社内で、たまに比呂の話が出る。別居も長いから、どうなっているのかと噂されているのだ。

 未だに別居中なのか、復縁したのか、話し合いは進んでいるのか。

 仲の良い職場ではあるけれど、親切心を盾にこそこそ噂するのはどうかと思う。

 比呂もそれに気づいているけれど、何も言わない。

 だから余計に、噂になる。

「で? 友達って女?」

「え? うん」

「ふぅん」

 明らかに疑いの眼差し。

 なんとなく、話をする気になった。

 本当に、なんとなく。

「大学のサークル内で結婚した二人がね、最近ちょっとギクシャクしてるって聞いたのよ」

「ん?」

 私は比呂に、必要以上にプライベートな話をしない。恋人ではない、期間限定の、しかも愛人関係なのだから、深入りするつもりがないから。

 まぁ、比呂は同僚でもあるから、そういう意味では深入りしているのかもしれないけれど。

「男の子が一人いるんだけど、その子が出来てからシてないって」

「……ああ。多いみたいだな」

「そうなの?」

「俺の友達も愚痴ってた奴、いたな」

 そういえば、比呂も私にプライベートを語らない。
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