指輪を外したら、さようなら。

 私は一歩後退り、両手で胸を隠した。袖が通りきっていなくて、手が出ない。

「俺に会えなくて寂しかった?」

 比呂がニヤッと笑う。

「はぁ? 別に?」

「それとも、声を聞いて疼いたか?」

「変態」

「俺は寂しかったし、疼いたよ」

 比呂の顔がゆっくりと近づいてきて、避けようと思えば避けられたのに、私はそうしなかった。

 まつ毛が触れるほどの距離になってようやく目を閉じ、唇を重ねた。

 軽く触れて、ふっと離れ、今度は息苦しいほど深いキス。

 たった一日会えなかっただけなのに、一年も離れていたかのように、その時間を取り戻すべく抱き合った。

「なぁ、千尋」

「ん……」

 比呂の唇が全身に触れる。

「好きだよ」

「ん……っ」

 胸の先端を指で刺激されて、返事なのか喘ぎなのかわからない声が漏れる。

「お前も俺を好きだろう?」

「あっ――」

 こみ上げる快感に背を仰け反らせ、私は彼の首にしがみついた。

「ん……」

 比呂のキスで声がかき消され、私は喉を鳴らした。

 焦っている、ように感じた。

 いつものようなしつこい愛撫じゃなく、ピンポイントで私の感じるところを刺激する。反応を楽しむような憎らしい笑みもない。少し乱暴にすら思える。

「ひ……ろ――」

「千尋……」

「んっ――!」

「千尋」

 苦しそうな比呂の声。

 私は今にもイキそうなのを堪えて、彼のモノに手を伸ばした。パンツのファスナーがはち切れそうなほど硬く大きくなっていた。

 彼のベルトを外し、ファスナーを下ろす。

「いっ――!」

 比呂の表情が歪み、私は手を止めた。

「ごめ――」

「いや」

 比呂は自分でファスナーを下ろした。ニットのボクサーパンツがピンと張りつめている。

「比呂、どうしたの?」

「なにが?」

「いつもより――」

「も一回、聞きたい」

「何を?」

「俺のこと、好きだって」

「なに、言って――」

「言えよ」

 真剣な表情。に、ほんの少し寂しそうな、苦しそうな瞳。

 やっぱり、おかしい。

「奥さんとなにか――」

 比呂の唇が、私の言葉を遮る。

 絶対、何かあった。
 比呂が私の中に入ってくる。

「んんんっ――!」

 気持ちいい。

 一瞬にして全身を駆け巡る快感に、比呂の焦りや苦悩の理由や、奥さんと何があったかなんてどうでもよくなってしまう。

 いつもより硬くて大きくて、突き上げられても引き抜かれても気持ちいい。

「ちひろっ――!」

 呻きにも似た、絞り出すような、縋るような声。

 いつもと、違う。

 何が違うか、頭の片隅では気づいているのに、無視した。

 どうなってもいいと、思った。

 比呂の一言がなければ、そのまま快感に身を委ねていられた。


「結婚しよう」


 快感が全身を駆け巡る倍の速さで、熱が引いた。

 私は両手で比呂の胸を押し退け、ついでに彼のみぞおち辺りを膝で蹴った。

「いって――!」

 私は起き上がり、脱いだパーカーを羽織った。
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