CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
シャワーのみ浴びようと考えていたけど、驚いたことに浴槽にはすでにお湯が張ってあって、バスルーム内も適温に保たれていた。
(……私のため?いいえ、まさか……きっと…蓮さんが入った後だから……)
蓮さんが私に気を遣う理由が見当たらない。
彼は、幼い時からずっと私に冷たかった。きっと嫌われているのだから、優しくされる期待はできない。
(……それなのに……私は……彼を利用しようとしている。自分勝手な理由で……本当に、いいのかしら?)
どうして、来てしまったのだろう。
お互い傷つけ苦しむのは目に見えているのに……。
シャワーを浴びながら、私はまだ迷ってる。自分のエゴを、蓮さんに押し付けていいものか…。
でも、そんな考えはすぐに頭から消し飛んだ。
ドアが開く音が響いて振り向けば、蓮さんがバスルームに足を踏み入れてきたから。
シャワーを止める間もなく、床にしゃがみ込んで身体を隠した。
「れ、蓮さん…!で、出ていってください…」
「なぜだ?」
「えっ…」
この人は、なにを言っているの?
「アンタは自分の意志でオレの部屋に来た」
「……確かに、そうですが…わ、私は…ただお話を……」
「嘘だね」
きっぱり否定され、彼は私の傷を言葉の刃で抉る。
「“おれは君を愛さないし、抱かない。だが、子どもを産んでもらう。そのため弟に抱かれてこい…遺伝子は同じだからな”ーー怜は、そうアンタに言った。だから、オレの遺伝子を貰いに抱かれに来た。違うか?」