CROSS LOVELESS〜冷たい結婚とあたたかいあなた
「大臣、妻が少し体調が良くないので、休ませたいのですが」
なぜか、パーティー会場から出る時に蓮さんがそんなことを言い出す。
「そうか。昨日の今日だから無理もない。しっかり休ませなさい。後は他の秘書を伴うから構わない」
「はい、ありがとうございます」
「れ、蓮さん私は…へい…ッ」
沢村のお父様が顔が赤いが大丈夫かね?と優しく訊ねてくださるのを、涙目でうなずくしかない。
蓮さんが見えない場所で身体に悪戯をしてくるから…。なんとか普通に振る舞おうと耐えるのに精一杯で。
三浦さんが迎えに来てくださるまで、羞恥心から顔を俯かせるしかなかった。
「……や、やめてください!人前であんな……」
涙目のまま勇気を振り絞り、蓮さんに抗議をした。なのに、彼はなぜか上機嫌で。
私の胸元に手を伸ばすから、ビクッと身体が震えるけれど。蓮さんが触れたのは、胸から下げたアクアマリンのペンダントだった。
「……身に着けてくれたんだな」
「はい……このドレスに合いましたので……あ、あの…ドレスや靴など…ありがとうございました」
今更だけど、ただの義姉なのにこんなふうに一式用意してくださったのはすごいことだ。改めてお礼を言うと、いや、と蓮さんは私の髪に触れた。
「大したことじゃない」
「でも…お高いのでしょう?デザイナーズブランドですよね?」
「確かにな」
「なにか、お礼を……」
私がそう言うと、蓮さんはなぜか私に顔を近づける。
「なら…」
蓮さんは私の髪の毛をサラリとすくい、そこに口づける。ドクン、とそこから熱が広がった気がした。
「オレの子どもを産んでもらう」